平和でさえあれば、
ただ貴方と居られれば、
それだけで良かったのに
七色の聖賢
第零話 大精霊たちの眠り
天界はいつもの様に空は晴れ、緑豊かだ。
それはこの精霊たちの領地でも変わりは無い。
何万年も前の話、精霊たちは異能者によってこの地に連れ去られてきた。
最後の抵抗で飛鳥は地上に光を残した。
そしてこの地で反抗組織を創り、異能者の居ない土地へと移り住んだ。
地上へは精霊の意志だけでは戻れないからである。
だが、まだ異能者の地上を失くそうとする考えは止める事が出来ていない。
それを解決させるのが大精霊の使命だった。
飛鳥はずっとそれだけを考えていた。
異能者を止め、精霊が地上へ戻り、地上が豊かになることだけを。
ある日、大精霊の館には飛鳥しか居なかった。
皆出払っていて、ある意味飛鳥は館の守護をしていた。
そんな折。
「飛鳥!大変です!村が―――。」
風の大精霊・颯が駆け込んでくる。
精霊側には村が一つだけあった。大きな大きな村。
其処には大精霊以外の精霊が住んでいた。
「颯!村の状況は!」
飛鳥はすぐに館を飛び出した。
迂闊だった。異能者がいつまでも手を出さないので、油断していた。
「焼き討ち、です。もう半分は被害に…そして精霊たちは、捕虜に…。」
颯の言葉に飛鳥は反応する。気掛かりな事が一つだけあった。
「夜宵と水乃はどうした。」
夜宵とは飛鳥の妹で闇の大精霊、水乃はその親友で水の大精霊、そして、飛鳥の恋人だった。
返事をしない颯を見て飛鳥は血の気が引く。
そして、行かせるんじゃなかった、と唇を噛み締め、走る速度を上げた。
村が見えてくる。近くは雨が降っていた。もう大部分焼け落ちていた。遠くで仲間の怒声が聞こえる。
「今炎は力を使わずに雨の中戦っています。大地は残った精霊の非難を。氷雨は騒ぎの鎮圧をしています。きっとこの雨は氷雨の―――。」
「違うな。これは…。」
飛鳥は颯の声を遮ると村の方向とは90度違う森へ入っていく。
颯の止める声も聞こえず、颯の声が途切れたのも分からなかった。
森の木々を掻き分け、無理矢理に進む。
自分の勘を信じて、必ず居ると信じて。
「飛鳥…?」
ハッと声のする方を向く。其処には憔悴し切って地面に伏せていた水乃が居た。
「水乃!」
抱き起こし手を握ると、水乃はゆっくりと口を開く。
「…ごめ、なさ…。や、よい…を…守れ…なく、て…。」
絞り出した様な声で、弱々しく吐き出す。
それに伴い、握り返してきていた手の力も弱まっていく。
精霊は基本的に死ぬ事が無い、けれどその弱々しさに不安になる。
「………ら、…なた、と…れば…それ、で……。」
良かったのに、と聞こえないくらい小さな声で言って、水乃は気絶する。
飛鳥が早くつれて帰ろうとすると
「あんたが光の大精霊・飛鳥?」
と、知らない声がして、飛鳥は声のした方を向く。
「ハジメマシテ。まあ、敵だから名乗る気は無いけど。」
敵、という言葉に飛鳥は水乃をその場に寝かせて、立ち上がり、剣を抜く。
そして剣をその敵に向け、ジッと見据えた。
「おっ、殺る気?良いねぇ。」
その男は背負っている大剣ではなく腰の剣を抜き、飛鳥に向ける。
それを見て飛鳥は男に切りかかる。
男は飛鳥の剣を片手で受け、へへっ、と笑う。
飛鳥はそれを見て少しだけ力を加えた。
すると男は直ぐに耐え切れなくなって避ける。
「何、今の。ものすごく重くなった…面白いなぁ。」
男はそう言うと今度は男が剣を振り下ろす。
飛鳥はそれを顔の前で受け、弾き返す。
すると男は面白そうに笑いながら無数の突きを繰り出す。飛鳥はそれを全て剣で受けた。
「ふーん、やっぱ光の大精霊はウワサ通り、か。でもこれはどうかな?おーい、深紅ーっ!!」
男がそう言うと、飛鳥の後方でガサガサと音がする。
飛鳥は反射的に振り返った。
「もーッ、呼ぶの遅いよーっ!この鈍間!」
「はは、悪いねぇ、楽しくってさ。」
深紅と呼ばれた少年は、水乃の首に短剣を添えながら明るく話す。
「…っ!水「おっと、大人しくしてもらいましょーか。」
飛鳥は水乃に駆け寄ろうとし、直ぐに止まる。その男は飛鳥の首に剣を添えていたからだ。
「ねー、蒼次、早くしてよぉ。」
深紅は、つまらなーい、と呟く。
「…何が目的だ。」
飛鳥は深紅を一瞥し、蒼次と呼ばれた男に問う。
「聖壇の封印、って言えば分かる?」
その言葉に飛鳥は驚く。
聖壇の封印とは、精霊たちの危機に行われる儀式で精霊の機能を全て停止する事だ。
つまり、生命維持以外の環境全てが停止し、失われる。
「まあ、封印してもしばらくは大丈夫かもしれないけどな、けど段々地上は滅びていくだろうなぁ。」
天界は全て異能者の人工物だが、地上は精霊の力で成り立っている。
もし精霊の力が無くなれば地上はただでは済まされない。
「だから、何もして来なかったのか…っ!」
異能者が精霊達に今まで戦いを仕向けなかったのは、天界の全ての物が人工物になるのを待っていたからだろう。
そして、準備が整えば精霊も、地上も全て用無しという事だ。
「そういうこと。あんたで最後だよ、きっとね。闇も風も地も炎も氷も…そして、そこの水ももう、完全な眠りについた。
使者が現れたって、きっと手遅れだな。それじゃ。」
蒼次は懐を探って結晶を出す。その中に精霊の体を閉じ込めるのだ。
「さよーなら。」
飛鳥が最後に見たのは、高笑いする深紅の姿と、其処に伏せっている水乃の姿だった。
…人間達よ、精霊の使者達よ
頼む。我らの力を、求めてくれ―――。
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